健康な人が健康でいられるために

残りの歯科医師人生を考えてみる。最近は、こんな事を考えるようになった。「時間が有限であること」を意識してからは、「やりたいことはやれる環境にあったら実行する」をモットーに「よく働いてよく遊ぶ」を実践してきたつもり。仕事に関しては、興味を持った研修にできるだけ参加し、仕事に対して学ぶ気持ちが失せたら、引退しようと決めている。自分の目指す診療体制を整えるため3度の内装工事もしてきたけれど、まだやりたいことだらけ。自分の家にはなかなか投資できないが、診療所には思い切って投資するようにしている。

でも、自分の歯科医師としての目標は決まっているのです。私は、ごく普通のなんでも屋の歯科医師です。臨床を30年弱やってきて思うことは、本物の歯よりすばらしいものはないということ。だから、歯を削らない、抜かない歯科医師になりたい。これを実践するのは難しいでしょうが、「近づきたい!」と思っています。




隣の歯の空隙をうめるために前歯の治療をうけている。いつも元気で、健康的に年を
重ねられている78才女性のお口の中。

いつの頃からか、矯正のために抜歯をするのはお断りするようになりました。健康な歯を抜くときの罪悪感は矯正専門医にはわかるまい。私が外科を好きではないこともあるとは思うが、抜かれる歯は確かに抵抗するのです。「抜くべき歯はすぐに抜けるものだ」と勤務医の時代に抜歯の得意な院長に教えていたことを思い出します。もちろん、親知らずは別問題ですが。歯科矯正は専門医がやるもの、私はそう信じてきました。でも、審美のために大切な永久歯を抜くことにどうしても納得がいかず…抜歯矯正した患者さんが顎関節症で来院されることもあり…そして、何か違う方法がないかと摸索し、「顎の拡大」という治療法があることを知りました。そして、ただ拡大していくだけでは駄目なことも知りました。歯並び、かみ合わせは、その人の咀嚼機能の歴史の結果だからです。でも、拡大していくと不思議なことに足りないところにスペースができていき、列に入れなかった歯が移動していきます。正中口蓋縫合線もまっすぐになってきます。歯は、本来出るべき場所に行きたいのですね。人間の自然治癒能力は本当にすばらしいと感心してしまいます。今は川崎の星岡先生の主催するSHTAに入会し、沢山の開業医の先生方と勉強させていただいています。この研究会のkeywordは健康です。狭窄歯列に対応し、健康をサポートしようという理念を持つ者の集まりです。床矯正の勉強会ではありません。歯並び、かみ合わせが、全身に悪い影響を与えることもあるのです。顎関節症や無呼吸症候群などがその例でしょう。

自分の仕事の結果を長期にわたって見ることになる開業医だったからこそ、できるだけ小さいうちから来院してもらうことの大切さを感じるようになりました。歯を削り充填しても、それは歯を治したことではないのです。考えてみれば、大学ではどうやって治療するかばかり教えてもらい、どうやって予防するかをきちんと教えていただいた記憶がありません。虫歯になった部分を取り除く外科的処置を行うだけでは、慢性疾患である虫歯は生涯にわたり繰り返され、また二次カリエスを起こす…まさに負の連鎖なのです。自分の繰り返した過ちの原因がここにありました。「早期発見、早期治療」ではなく、「早期発見、経過観察」ができるような診療所にならなければいけません。それには、個々の患者さんに対して、リスク評価による虫歯の管理をしなければいけません。そしてバイオフィルムをきちんと取り除くこと。この診療体制は、歯科衛生士さんの協力なしにできません。痛くなってからの来院では、遅いのです。虫歯や歯周病に対して発症前に診断し予防すること、それを患者さんと一緒にやっていけたら、こんな私でも歯科医師になった意義があるかなと思います。それに、歯科医師としての夢や目標が持てた分、私は幸せだと思います。

診療所として、今まで以上に真剣に「予防」に取り組むべきだと思います。「健康な人が健康でいられるために」、そう考えると、私たち歯科医療従事者がするべきことは、まだまだ沢山ありそうです。