年始めに思うこと

今年最初の患者さんは、84才女性のUさんでした。UさんはH7年より来院し、現在26本の歯が残っています。少し腰が曲がってきてはいますが、健康そうです。初診時は右下の親知らずが虫歯で、抜歯から治療が始まりました。

私の診療室には、常に歯科衛生士がいました。でも、その頃の歯科衛生士の仕事は、歯の掃除に歯磨き指導。染め出しては磨き、どの患者さんに対しても同じような指導をしていた記憶があります。

その後Uさんは、H9 年に2本の奥歯を失いました。現在は、歯のお掃除に定期的に来院され、ずっと現状を維持しています。

ふと気づくと、今日来院されたTさん87才女性も、25本。Tさんは、開業当初から17年のお付き合いです。Iさん81才男性は24本…みんな8020達成です。みなさん、過去の治療のやり直しはあるものの、定期的に来院し、衛生士のケアを継続して受けています。歯周病は感染症であり、生活習慣病です。健康は自助努力なくして生まれないということです。

私の医院では、訪問診療も行っています。ご高齢になり、来院できなくなった患者さんがいらっしゃるからです。

年始めに思うこと

年始めに思うこと

年始めに思うこと

しばらくお顔を拝見しないと思っていたら、パーキンソン病、若年性痴呆症で寝たきりになっていた患者Nさんがいます。3年ほど前から訪問させていただくようになりました。介護度5 家族が一丸となってお世話をしています。途中から胃ろうになり、ほとんど口から食べることがなくなりました。お口から食事ができないということがどうゆうことなのか、私はNさんから学ばせていただいています。

長い間のベットの上の生活で、下顎は後退していました。歯ぎしりがはじまり、歯が折れたこともありました。上の犬歯で下口唇を噛むようになり、介助者が気づくと、大量に出血していることもありました。「先生、なんとかなりませんか?」訪問を専門にしている衛生士は、私に難題を与えてくれます。

訪問すると、下口唇には潰瘍ができていました。噛むことはお口の周りの沢山の筋肉を使います。ベットで1か月生活すれば、驚くほど足の筋肉が落ち、歩けなくなった経験をお持ちの方ならお解かりかと思います。お口も同じです。口の周りの筋肉は顔の筋肉につながり、豊かな表情をつくっています。“唇を動かす「口輪筋」こそが美顔の中心”なんて本も出版されています。

Nさんは、なんとか歯の型がとれたので、技工士に残業してもらい、マウスピースを院内で作りました。「マウスピースを入れると、顔が変わる」とおっしゃったのはご主人です。実は、ちょっぴりマウスピースに手を加えました。そしたら、本来のNさんのお顔になりました。2週間後、Nさんの口唇の傷はほとんど気にならないほどになっていました。

訪問治療を始めて、何人かの患者さんとのお別れも経験しました。

衛生士と訪問した1週間後に、Kさんは亡くなられました。口腔乾燥が著しく、最後はカンジダ症をおこし、食事もとれない状況でした。帰り際、手を握られお礼を言われました。それが、最後のKさんとの会話でした。でも、私に何ができたのだろう? お別れした患者さんに対して、いつも後悔だけが残るのです。

歯科医療は生涯を通して、患者さんをサポートする仕事です。以前の私は、虫歯や歯周病になってしまった患者さんにどう対処するかばかり考えていました。結果として、再発の繰り返し…どんな材料を使っても、自分の歯より良いものができないことが今の私にはよくわかります。「カリエスフリーの子供を増やすこと、生涯自分の歯で食事ができる患者さんを増やすこと」これが私の診療所の目標です。幸いなことに、私には心強い4人の歯科衛生士がいます。診療を補助してくれる助手や受付、歯科技工士に手話通訳者もいます。協力してくれるスタッフに恵まれているからこそ、自分の目標に向かっていくことができると感謝の気持ちを忘れないで、今年も頑張りたいと思います。