言葉への感謝

私には数人の又甥、又姪がいる。彼らは大叔母である私の顔を見ると近寄ってきて、歯を見せてくれる。おそらく私が何をしている人なのかはわかっておらず、小さい時から会うたびにお口をチェックされるので、パブロフの犬のように(失礼)私を見たら歯を見せないといけないと思っているようである。先日、3年生になったYと会った。いつものように「あ、須美さん、今日はどうしたの?」といい、真珠のようなキラキラした歯を私に見せた。「僕ね、担任の先生に歯がきれいだねってほめられたよ。だからもっと褒められるように、すごく頑張って歯を磨いているの」と言った。担任の先生と話をしている時に、先生がYの歯を見て、ふと言った一言がとてもうれしかったらしい。ほめられると人はやはりうれしい。ほめて育てるというが、仕事でも子育てでもダメ出しばかりしている私は、Yの話に反省させられた。何気ない一言が、相手を奮い立たせたり、落ち込ませたりするものだ。

そんな私も患者さんの言葉にもう少し頑張ろうと思わされたことがある。

通院してくださる患者さんの中に99才の男性患者さんがお二人いらっしゃる。お二人とも私を見るとこちらが恐縮するほど丁寧に頭を下げ、挨拶してくださる。とても礼儀正しい紳士である。最近その患者さんの一人、Aさんから便箋3枚に綴られた自筆のお手紙をいただいた。Aさんは2021/04/30の私のブログに登場したディアドコ検査の結果がすばらしい患者さんだ。当時95才だったAさんは、その後も定期的に来院されていた。Aさんから届いた手紙、それは突然のお別れの手紙…2月に来院後、体調を崩され、入院、手術。経過も順調だったけれど、病後の身では独居は無理でしょうと診断され、そのまま介護老人施設に入所となった経緯が書かれていました。99才で自分の足で歩き、会計もし、アポイントもきちんと守り、そんなAさんに会えるのも日々の診療の中で私の楽しみでもありました。「100才まで先生の患者をと心がけていましたが残念でなりません」「晩年、先生に巡り合えた幸運を喜んでおります。どうか今後もご活躍のほど、心から願っております」の言葉と共にスタッフへの感謝の言葉が添えられていました。あまりに突然で、手紙を読みながら涙が…私は特別のことはできないけれど、Aさんのもったいないほどのお手紙にもう少し頑張ろうと自分を奮い立たせました。「先生、ありがとうございました」「お大事になさってください」何気なくかわされる患者さんとの会話ではありますが、自分のできることで人に感謝していただける仕事につけたことに感謝して日々の仕事に向かいたいと思いました。

Aさん、お元気で。私こそ、Aさんとの出会いに感謝しております。

写真はナゴラン 日本原産の唯一のコチョウランです。趣味の園芸