Sさんとの再会

5年数か月ぶりの再会は、突然にやってきました。それも地域包括支援センターの一本の電話から。

受付からの伝言で、電話をかけなおすと、担当のHさんから懐かしいSさんの名前が出ました。Sさんは以前来院されていた患者さんで、朝の通勤途中で時々顔を合わせていた患者さんです。ある時からばったりと会わなくなり、気になっていたのですが、こちらから連絡するのも気が引けて、そのまま時間だけが過ぎていきました。その頃、Sさんは妹さんを亡くされ、ただでも痩せていたからだが一層痩せて元気がなく、通院することすら大変そうに感じていました。

その電話の内容は「Sさんが長谷川先生に歯を診てもらいたいと話している」ということでした。数年来の友人に会うような気持ちで、次の日の休み時間に訪問させていただくことにした。体調はあまりよくないようですが、私の事を覚えていてくださったこと、そして再会できたこと、本当にうれしかったのです。
Sさんは、数年の間に歯を2本失い、入れ歯が合わなくなっていました。残っている自分の歯にはプラークがべったり残っていましたが、入れ歯は介助している方がきれいに洗っていてくださっていたようでした。食欲がなく、ほとんど噛むことをしていないと聞きました。使わなければ、筋肉はさらに落ち、まさに負の連鎖に陥っていきます。噛んだ刺激は歯から脳へ伝わり、脳を活性化させます。アルツハイマー型の認知症との関連もデーターで示されています(歯を失うほど認知症になりやすい)。さらにご高齢の方には、誤嚥性肺炎と、生命に関わってくる問題になりかねません。

でも、歯があるだけではだめなのです。
上手に食べるためには、食べる意欲(食欲)、機能(働き)、形態(器官)が揃ってなければいけません。従来の来院できる患者さんを診療するのとは違い、訪問診療は医科の知識も必要となります。大学で歯を復元することばかり学んできた私は、今になってもいかに学ぶべきことが多いことかと気づかされる毎日です。

Sさんに「おいしい」といって食事をしてもらうこと。これが今の私の願いです。

ところで、今年もシャコバサボテン(別名デンマークカクタス)が咲く季節になりました。手をかけるとお花は答えてくれるからいいですね。そうそう、今年はサボテンの花が2回も咲いたし、アマリリスは6輪も鮮やかなダイナミックな花を私に見せてくれました。お花は見ているだけで、本当に心が和みます。

いろいろ悩みもありますが、もうしばらくお仕事頑張ります。