患者さんになって

院長の長谷川です。

長谷川歯科クリニックがもうすぐ夏休みになろうという頃、私にとって重大事件が起こった。
「前歯噛み」を患者さんに説明するために、するめを使って噛み切る事を体験してもらおうと決めた私。そこで、滅多に食べたことがないするめを噛んで、実際に体験してみることにした。途中からすっかり趣旨を忘れ、久々のするめを夢中になって味わっていた。一瞬左上に経験したことのない違和感が走った。

何が起こったの!! ここで、歯科医師の我に返った。診断「歯根破折」

時々、患者さんにそう診断することはあるけれど、まさか自分がそうなるとは…。
誤診であったらと思いつつ、時間とともに大きくなってくる歯の揺れに、それは確信へと変わっていった。悩んでいても仕方ないので、従弟の歯科医を受診することにした。
状況から、抜歯を覚悟していた。だから、保存できそうもないと聞いても、素直に頷くしかなかった。麻酔が始まり、いつの間にか、手はお祈りポーズ。飛行機の離着陸の時に無意識にしてしまう「アーメンポーズ」になっていた。目は開けていられない。この歯は抜きづらいなと抜歯のストーリーが脳裏をよぎる。することがわかるから余計に怖い。

毎日当たり前のようにしている歯の治療。麻酔したり、歯を削ったり、抜歯したり…。 する方からされる方へ立場が変わると、患者さんの気持ちがわかる。そして、こういう経験も必要と思う。でも、「たまには」でいい。

せっかく(?)歯を抜いたのだから、この機会に義歯を体験することにした。技工士である妹が、すぐに透明レジンで義歯を作ってくれた。しかも床のところにピンクのレジンでバラの模様まで入れてくれた(これは、スタッフに大うけ)こんな小さな異物でも、気になって仕方ない。床縁を短くしたり、薄くしたり、噛み合わせを調整して、やっと私の口が受け入れた。患者さんは本当にすごい人たちである。

歯が一本おかしいだけで、無意識のうちにそこを避けて食べようとする。歯を抜いたらずいぶん噛めないし、本当に噛みにくい。食生活も変わる。これも歯科医としての試練。きっと神様が患者さんの気持ちを理解させるために、私に与えた試練であると思う。

歯を失うことは、ショックが大きい。急に年をとった気分になる。これ以上、歯を失いたくない。もう、するめは食べない。
でも、一つだけ学習したことがあった。こんなストレスの大きい事をされるのに、私の医院を選んでいただいて、患者さんには感謝しかない。だから、常に患者さんの立場になって考えることを忘れない歯科医でありたい。

今年は、夏の間シクラメンがずっと咲いていた。不思議な私のシクラメン。

姉のところにお祝いでいただいた胡蝶蘭の鉢がたくさんあった。優雅な花をしばらく楽しんだが、ついに花が落ちてきた。そこで、胡蝶蘭を咲かせてみたいと思い、立派な鉢をひとついただいて、株を分けてみた。花が咲いたらまたブログに載せますね。